第八話〜接吻

切ない、切ないと書いても書ききれないほどの切なさ満開のドラマ『歌姫』です。及川勇一(長瀬智也)がどんな人物だったのか、思いを込めて話す勇一の妻、美和子(小池栄子)。山之内の親分さん(古谷一行)と美和子によると、勇さん=太郎と美和子は親同士が決めた許婚で、どちらも政治家の家に生まれ、勇一は今の東大出身のインテリで、柔道と音楽(ギター)が得意で、とっても穏やかな性格で、周囲からも将来を嘱望された人物だったらしい。それが、全く記憶を失ってしまうとは。。父の跡を継いで政治家になるのが夢だったんだね。

でも、やっぱり朝ごはんは食べなきゃならなくって、一家団欒の食卓では、相変わらず楽しそうに振舞う太郎が切ない。美和子が持ってきてくれた大好きだったいぶりがっこ*1を見て複雑な、何とも表現し難い表情の長瀬がね、辛いわ。
太郎の笑顔を見て「胸がドギマギするわ」と言った美和子。そうよ、そう。長瀬の笑顔って誰にも負けない最高の笑顔なの。これはあてがきかと思える脚本でした。
でも、今の太郎と勇一があまりにかけ離れた人物に思える岸田家の浜子(風吹ジュン)や勝男(高田純次)の話を聞いていた鈴(相武紗季)は、それを確かめにメリーさん(遠山景織子)のお店に行き、美和子と話してみる。でもね、やっぱり太郎=勇一と確認しただけで、あの写真まで見せられては…。その後で、鈴を迎えに来た太郎を見ていた美和子も切ない。。浜子さんが糠みそを混ぜながら泣いているって、とっても主婦ならではの泣き場だと思う良いシーン。
この混乱の中、山之内の親分さんの所に網走から戻って来たのは、本物の狂犬、久松(松村雄基)。これからどんな風に絡んでくるんでしょう?長瀬との対決はあるのかしらん?
近所の食堂で働きだした美和子は鈴の気持ちに気づき、ゲルマン(飯島ぼぼぼ)たちに二人の関係を尋ねる。そこで、二人を熱烈に応援しているジェームス(大倉忠義)が答えてしまう。うーん、はっきり言いすぎだよ、ジェームスくん。美和子に太郎への気持ちを聞かれた鈴が鏡に向かって「変な顔ちや」と泣いてしまうのは、悲しいけれど好きなシーンです。
あの思い出の懐中時計は、美和子さんが勇一の二十歳の誕生日に贈ったもの。そうか、二十歳の誕生日に、勇一は美和子さんから時計を貰い、美和子さんは勇一からひまわりのブローチを貰い、鈴は真珠の、バッタもんのネックレスを太郎から貰った。このそれぞれのアイテムにも意味があるのだと感じさせてくれる。
どんなに話しても「全くの他人にしか思えんき」と言われてしまった美和子も可哀想なら、それを言ってしまって後悔している太郎も可哀想で、終わりが予想できなくなってきてしまいました。
ただ、どうやら妊婦の扱いにも慣れている美和子さん。ということは、…ということなの?あー、それでも、歪んでしまった時空間は、どんどん進んでいき、終に太郎と鈴はキスをする。とっても綺麗なキスシーンでした。BGMも消して、軽い初キッス。でも、太郎の一瞬戸惑った表情と、あの間と、あの西日のなか、鈴の背中に綺麗な手を回した太郎が切なさ満開なの。何もかも入り混じったあの睫毛の長い長瀬の表情は最高だわ!腹巻なんか忘れてしまうパワーでした。

*1:収穫した秋大根を縄で一本一本編み一組一組、天井に掛け込んで桜、楢の木でゆっくりといぶします。いぶした大根を米糠、天然塩で仕込み厳寒の中で熟成させ仕上げる。とこちらのHPにあります